最近カービングスキーを用いて、気持ち良さそうにカービングターン(=横ズレの無いターン)を楽しむスキーヤーを、一般のゲレンデで多く見かけるようになりました。10年程前だと、国民体育大会や全日本スキー選手権大会の練習バーンで見られたような、滑走性の高い、ブレーキング要素の少ないものです。これは、ニューコンセプトスキーと呼ばれる「カービングスキー」の開発・普及によるものと言っても過言ではないでしょう。「カービングスキーの技術論」に関しては、機会を改めて詳しく解説したいと思いますが、今回は、その一部を構成する重要な要素である「ストックワーク」に焦点をあててみたいと思います。つまり「ストックワークのメリット」、もしくは「ストックを突く事の意味と価値」について考えてみます。

前述のように、カービングターンで滑走するスキーヤーが非常に多くなりましたが、反比例するかのように、ストックを有効に使って(突いて)ターンをするスキーヤーが減りました。会員の皆さんはどうでしょうか? カービングターンを気持ち良く楽しんでいる時、又は最近滑走中ストックを突いて滑っていますか? 多分半数以上の会員の皆さんは、突いていないのではないでしょうか? 指導者の皆さんですから、ショートターン(小回り)では突くけれど、ロングターン(大回り)では突かない、というように、滑走により使い分けられている方もおられる事でしょう。

また日本のスキー指導の現場において、ターン運動の技術的要素が凝縮されているシュテムターンの指導の際、「ストックを突く」のか「突かない」のかを明確にしない事が多いようです。しかし、ターン運動技術に未熟な学習者にとって、ストックを「突く」か「突かない」のかといった運動の違いは、運動の習熟過程や運動のバリエーションに大変大きな影響を与えるのです。

私はスキーのターン運動技術について考える時、常にアルペンスキーのトップ選手のターン運動を観察・考察する事にしています。従って、日本で行われるワールドカップ等は、大変貴重な情報源ですので、可能な限り自分の目で直接観る事にしています。また一緒にコーチの養成講習を受けたり、トレーニングをした海外の友人(コーチ,選手)と再会できる機会ですので、楽しみでもあります。02/03シーズンは、志賀高原に男子ワールドカップ技術系が開催されます。

それでは世界のトップ選手の滑りを、観察してみましょう。ここでは、これといった画像(写真)は、あえて提示しません。それは、個性的なターン運動技術(運動スタイル)ではなく、一般的(=基本的)なターン運動技術(運動タイプ)としてターン運動を捉える為です。もしトップ選手の運動が、イメージとして頭の中に浮かんでこない場合は、Skier 2003(山と渓谷社)P.116~117,P.120~123,P.172~175の映像を参考にしてみて下さい。

回転競技(SL)において選手達は、ストックを、何時・どのように使っているのでしょうか? 選手は、ターンを始動する際、つまり谷回りに入る直前に、谷側(=ターン内側)のストック、もしくは山側(=ターン外側)のストックをも同時(=ダブルストック)に雪面に突きます。つまりストックを突いてから、ターンを行っています。また可倒式ポールになり、滑走中ターン外側の腕/手でポールを倒す(アタック)、通称:逆手テクニックには、ストックは別の用途、つまりポールを排除する事に、必要不可欠なものとなりました。

次に滑降競技(DH)は、どうでしょうか? 滑降競技ですから、クローチング姿勢での高速直滑降が多く、また高速で非常に大きなターンをクローチング姿勢で滑走します。そのターン運動技術には、ストックを突いてからターンするような運動は、あまり見られないのが普通です(近年、安全性の問題等からターンヶ所が増える傾向にはありますが…)。

その間の種目である大回転(GSL)やスーパー大回転(S-GSL)では、そのターン運動においても、前述の回転競技と滑降競技の間と捉える事ができます。

最後にまとめますが、実は「ストックワークのメリット(重要性)」もしくは「ストックを突く事の意味と価値」は、このトップ選手達のターン運動技術が全てを語り、そして証明しています。なぜなら選手達の運動は、自己、いや人間の限界に挑戦しているのであり、勝つ為=速く滑る為には、利用できるもの全てを有効に使う必要があるからです。

≫ ストックワークの3大メリット