最後にストックの選び方について、簡単に説明してみたいと思います。今回は、ストックの開発・製造・販売を行うストックのプロからの意見・情報をも含めて、解説したいと思います。
◆長さ
最近、一般スキーヤーにとっては特に問題視・混乱している点だと思います。ストック開発のプロは、「ストックの長さは、スキー技術の変化に密接に関係している」と捉えています。更に、「アルペン(競技)においては、長さに大きな変化は無いと感じている。しかし基礎においては、カービングスキーの登場以来、連続した動きの中でストックを突く比率が少なくなった。スキー板が雪面をグリップして加速するのを楽しむ事を多くの人が体験したので、体が遅れないように、バランスを取る為に、ストックを前に突き出すだけのよう。一般的にはワイドスタンスで、フォールラインに向かって膝を左右に倒すだけでターンできるので、腰の位置が下がり、ストックは短くなった。マスコミが有名選手の極端なサイズの情報を取り上げた事で、ユーザーが長さに迷っている事は、よく耳にします。」と捉えています。この「 」内のストック開発・製造者側の捉え方は、私(塚脇)がターン運動の技術論的な観点・指導者からの観点で解説した、前記の≪ストックワークの3大メリット≫と≪ターン運動技術とストックワーク≫とに合致していると言えるでしょう。
また、「膝を左右に倒すだけでのターン」や「腰の位置が低くなった」点についての諸問題(ターンの運動的な質の低さ,膝関節の障害/傷害につながる事等)は、昨年の神奈川県スキー指導員会総会時の講演会で、若干説明させていただきました。また膝関節の障害/傷害については、更に詳しくまとめた論文(塚脇 誠著)が、近日、日本スキー学会誌Vol.12(2002年7or8月)で発表される予定です。ご参照下さい。
ストックの長さは、スキーの運動技術に密接に関係しています。それは、ストックの長さによって、容易に滑走姿勢(滑走ポジション)を変える事が可能だからです。最近のショートストック傾向は、前述のように、滑走姿勢が低くなった事によるものと捉えるのが普通(妥当)で一般的です。しかし技術論的に分析すれば、滑走姿勢は低くなってはいないのです。従って、滑走姿勢は変化していない(低くなっていない)ので、ストックを短くする必要は無い事になります。カービングスキーを使用するようになったからといって、アルペン競技選手のターン運動技術が根本的に変化したわけではありません。従って、ストックの長さに変化が現れないのは当然です。この滑走姿勢に関しては、ターン運動技術論の中核を構成する内容となりますので、また後日機会がありましたら、詳しくご説明したいと思います。
一般的認識では、滑走姿勢が低くなったからストックが短くなったと、捉えられています。ストックを短くすれば、姿勢は低くなります。しかし足関節(足首)の角度は、ブーツによってある程度固定されていますから、結果的に腰掛姿勢に近くなる事を、覚悟しなくてはなりません。滑走中腰掛姿勢になる事は、踵に荷重し易くなります。結果、滑走中にどのような影響を及ぼすか…、これ以上の説明は必要ないかと思います。また逆に、ストックが長すぎても、後傾姿勢になり易くなります。従って、ストックの最適な長さとは、≪ストックワークの3大メリット≫を考慮し、その個人個人がストックを最大限有効利用できる長さ(当然、滑走技能や条件も密接に関係します)となります。
◆材質
近年は、カーボン系の細身のストックが主流になってきています。ストックは、振って軽く感じる事が重要なポイントと思われますが、カーボンはそれだけで選んではいけないようです。その強度に関しては、理想とする指標が現在まだ確立されておらず、各メーカーそれぞれマチマチのようです。具体的には、ビンディングを解放できないものや、身体を支えられない程しなるシャフト等です。また、これまで主流であった実績のあるアルミに近づける事を前提に、開発している先進メーカーもあります。今現在は材質の表示だけで、シャフトの性能・安全性等をユーザーが理解する事は難しいようです。従って、耐久性・機能テストを経て製品にしている、信頼できるメーカーの製品を選ぶ事が重要となります。
以前ヨーロッパのアルペン競技選手達が日本での国際大会に出場し、日本のストックをたくさん入手して、帰国して行きました。日本のストックメーカーのストック開発・製造技術の高さは、世界的に認められているのだと、感じた事があります。私もヨーロッパのストックをテストした経験がありますが、全ての点(部分的要素や総合的な評価)において、日本のストックが最高のものと現在も認識しています。