スキーの選び方

塚脇 誠

昨年、神奈川県スキー指導員会総会での講演では、「カービングスキーの乗りこなし方」という課題を頂き、講演させていただきました。その中で、用具の選択についても簡単にふれました。今回は、少し掘り下げてみたいと思います。

近年、各スキーメーカーは様々なタイプのカービングスキーを開発し、販売しています。しかし、我々スキー指導者を含め、あまりに情報が多く、選択の幅も広く、「何」を選べば良いのかわからなくなっている事も事実ではないでしょうか? そこで、今回はスキー選びのポイントをあげながら、ご説明したいと思います。

私は、スキーの構造(例えば、スキーの形状;βetaや、キャップ・サンドウィッチ構造…)でスキーを選択するのではなく、滑り手であるスキーヤーが求める性能(操作性等)を持つスキーを選択すべきと考えます。従ってスキーの構造は、スキーヤーが求める性能をクリアーできるものであれば良いのではないでしょうか。そこから、それぞれのメーカーが開発した構造を、自ら評価していくのです。

スキーの操作性能を決定する主な要素

スキーの操作性能は、大雑把に言えば、「サイズ(長さ)」,「サイドカーブ(Radius:ラディウス)」,「トーション(ねじれ強度)」,「フレックス(しなり強度)」によって決まると言えます。以下その要素を、それぞれ解説しますが、それぞれの要素は密接に関係し合っている事を忘れてはなりません。

◆スキーサイズ(長さ)

スキーサイズ(長さ)についてですが、長ければ滑走安定性には優れますが、スキーのスイング(回旋)は、しにくくなります。逆に短ければ、滑走安定性は劣りますが、スキーのスイングは容易になります。これは、これまでのノーマルスキーとまったく同じです。

しかしカービングスキーの場合は、スキーのサイズ(長さ)が、滑走中のスキーヤーの前後バランスに大きく影響します。カービングスキーは、エッジングを切り換えた後の舵取り期(局面)においては、雪面をえぐり込み(Carving)ながら滑走し易い特性(性能)を持ったスキーです。その際、医科学的な研究データによると、スキーヤーの重心は、スキーヤーの踵に移動する事がわかっています。つまり、後傾姿勢になり易くなっています。スキーが長ければ、より大きな力(後傾姿勢)にも耐えられますが、短ければ足元をすくわれ、転倒する事につながります。この転倒は、膝関節の傷害(怪我)につながり易いので、注意が必要です(日本スキー学会誌No.12の論文:カービングスキー技術論Ⅰ(塚脇著)を参照して下さい)。

まとめると、スキー滑走(ターン運動)中、最も難しい前後のバランス保持は、長いスキーでは比較的容易ですが、短くなると難しくなるのです。

◆サイドカーブ(Radius:ラディウス)

スキーのサイドカーブの表示は、メーカーによって、スキーのトップ/ウエスト/テールの幅(mm)で表示されているものと、サイドカーブが、半径どのくらいの円の円周(Radius:ラディウス)に該当するかで表示されているものとの2通りの方法があります。現在は、ワールドカップのSL(回転)以外の競技で、ラディウス:Rの規制をするようになった影響で、ラディウスで:R表示する場合が多くなりました。ここでも以下、ラディウスをRという表記方法で表現したいと思います。

Rが小さくなったスキーを、我々はカービングスキーと呼んでいます。現在、GSL(大回転)のスキーは、「Rが21m以上でなければならない」、となっています。SL(回転)スキーの場合、Rは10~15m程度です。日本の一般用スキーでは、15m前後のものが多いようです。

このRは、ターン運動の舵取り局面において、決定的な性能を発揮する要素の一つです。自動的に滑走できるスキーロボットにカービングスキーを装着して滑らせると、スキーのRによって舵取り局面のターンの大きさがほぼ決定されます。Rが小さければ小さい舵取り局面、Rが大きければ大きい舵取り局面になります。我々は人間ですので、ロボットのように計算通りの滑走はできませんし、またロボットはインプットされた条件以外の滑走はできません。しかし、Rの小さいスキーでは、比較的小さいターン弧、Rが大きいスキーでは、比較的大きいターン弧になる事は、皆さんも経験上おわかりかと思います。

Rが小さすぎると滑走安定性に欠け、スキーに不要なバイブレーションを引き起こし、結果、競技の場合はタイムが出ません(=遅い)。一般スキーヤーの場合はバランスを崩し易い、つまり転倒につながり易いと言えます。これは、私自身滑走中実際に感じていた事、理論的にも考えられることでありました。2001/02シーズンのワールドカップ最終戦(2002年3月上旬)、Skier取材Teamのテクニカルアドバイザー&通訳で同行した際、A社のスキー開発責任者との対談がありました。そこでは、Rが小さすぎる(SL:11m未満,GSL:24~25m未満)とタイムが出ない(=遅い)ので、そのようなSkiは開発しない(Skier2003:P.130~131/016~017に関連記事がありますので参照下さい)、との見解でした。またスポーツ医科学的な研究でも、カービングスキーが滑走中にズレを生じた場合は、Rの大きなノーマルスキーに比べて、大きなバイブレーションを引き起こし、転倒につながる可能性があるとしています。

◆トーション(ねじれ強度)

トーションが強ければ、スキーのエッジは雪面により食い込みますし、ねじれてしまえばスキーのエッジは雪面に食い込む事が出来ずに、スキーはズレる事になります。従って、よりズレにくいスキーでなければならない競技タイプのスキーは、トーションが強く、ズレを伴った滑走を要求される初級者対応のスキーでは、トーションは柔らかくなっています。

競技スキーはトーションが強いのですが、まったくねじれないわけではありません。トーションをカチンカチンにしてしまえば、あらゆる雪面の凸凹をスキーが捉えてしまい、結果スキーはキョロキョロ方向性・安定性を失います。初級者対応のスキーでも、まったく雪面に食い込まない程柔らかければ、中・急斜面,アイスバーン等の斜面状況に対応できないスキーになってしまいます。

◆フレックス(しなり強度)

スキーのしなりは、スキーの反発力とも言えるでしょう。ロングターンをする際には、ゆっくりたわんで、ゆっくり戻る。ショートターンの場合は、素早くたわんで、素早く戻るスキーが操作し易いスキーと言えるでしょう。このフレックスは、特にトーションとも密接に関係しています。トーションとフレックスのバランスは、スキーの操作性に非常に重要です。

カービングスキーの場合は、上記の操作性にもう一つ重要な要素を含んでいます。それは、スキーサイズ(長さ)の項で説明しましたが、滑走中の前後バランスの問題です。カービングスキーは、後方にバランスを崩し易いという説明をしました。いくらスキーが長くても、フレックスが柔らかければ後方にバランスを崩した際、踵からスキーが折れたように曲がり(しなり)、結果、足元をすくわれて転倒につながり易いのです。

あるメーカーでは、ショート(短い)スキーでの滑走中、前後方向へのバランス保持の為に、意図的にフレックスを硬めに設定しています。つまり、スキーの短さで失われやすい前後方向へのバランス保持の為に、フレックスを調整しているのです。フレックスが硬い/柔らかいは、店頭でスキーをしならせてみればわかります。ただし、比較対照が無ければ、わかり難いです。

では、どうしよう? ⇒ スキーの選択

スキーの選択方法(基準)は、カービングスキーが普及するまで、初心者/初級者/中級者/上級者/競技,etc…といったものでした。しかし現在は、どのような滑り方をするのかによって、スキーを選択する時代になりました。それは、高速滑走志向 ⇔ 低速滑走志向,ロングターン ⇔ ショートターン等です。このスキーヤー自身の志向=楽しみ方によって、スキーに求める操作性能が決定されます。例えば、仕事が忙しくザウスで滑走する都会派・ビジネスマンスキーヤーの場合、ゲレンデの環境(雪質・スペース等)から、ミドルターン~ショートターン滑走が多くなる。そして滑走スピードもそれほど速くない。するとRは15m前後で、あまり長くないスキー(160~170cm前後)が滑りやすいという事になります。ちなみに私が、ザウスで楽しみたいのなら、R=18m前後,170cm前後のSkiを選択するでしょう。

私は現在、奥志賀高原をベースにスキーの指導活動(アルペン競技コーチを含め)をしております。ゲレンデはご存知の通り、標高差約450mのゴンドラリフトをフル活用して、ロングコースを高速で滑走します。特に私の指導は、オーストリアの指導法の良い所=“ロングコース滑走の中から、参加者の皆さんに、自らポジションを発見して上達していただく方法”です。従って、比較的Rの大きな(25~28m)、長めのスキー(181~188cm)を、私は必要としています。またこれが、シーズン中ほぼ毎日ゲレンデに立つ指導者にとっては、身体に優しいスキー用具でもあるのです。2000/01シーズンは奥志賀のスキー教師達も、こぞってショーカービングスキーブームにのり、ショートスキー+Rの小さなスキーで滑走していました。しかし、シーズンインから1ヶ月もすると、膝が痛い・膝が重たい・疲れる等の、身体への影響が出てきたのです。シーズン中、身体を壊さずゲレンデに立ち続けられるかどうかは、スキー教師にとって決定的な問題です。私は、その時からRは大きく長めのスキーを使用していました。スキー教師達には、『これからの時代は、長く、Rのでかいスキーで楽をするんだよ!』と日ごろから言っていました。2001/02シーズン、スキー教師たちのスキーが長くなってきた事は言うまでもありません。勿論、ショートターンの講習も行いますので、担当したグループの習得目標がミドルターン~ショートターンとなれば、R=12~14m,160~170cmのスキーを使用して指導します。また、スキー教師の指導的立場にあるスキー教師は、『Rが小さく短いスキーだと、ターンが多くなって、なかなか下までたどり着かない』と、スキー教師でも、ゲレンデの環境(スペースなど)に適したスキーの選択が必要と示唆しています。

従って、スキーヤーはどのような滑り方を好むのか? また、よく行くスキー場のゲレンデ環境(標高差,コース幅,混雑状況等)も考慮した上で、自分の求めるスキーを選択する必要があると思います。

SAJも言うように、現在スキーヤーの志向は多様化しています。その多様化したスキーヤー自身の要望に合ったスキー選びが重要です。勿論、何でもそうですがスペシャル化すればするほど、横への幅(応用性)は小さくなります。また、何でもこなせるとなれば、当たりは無いが外れも無いものとなり、全体がぼやける事は当然で、なんとなく物足りなくなることも事実です。どこまでスペシャル化して、どの程度までぼやかすかを決定する事が、失敗しないスキー選択の最も重要なポイントと言えるでしょう。

毎年2台も3台もスキーを購入できないのが時代です。使用目的に合ったスキーを、ある程度長期的な計画の基、スキーを購入していく事も重要でしょう。

現在私がお勧めする、スキー選びの目安の一例をご紹介します。あくまでも一例です。

志向 長さ(cm) Radius:R(m) トーション フレックス プラスα
SL,

ショートターン

160~170 10~15m 初級 ⇒ 上級

低速 ⇒ 高速

↓        ↓

柔  ⇒  硬

初級 ⇒ 上級

低速 ⇒ 高速

↓       ↓

柔  ⇒  硬

色, デザイン
メーカー,価格,etc…
GSL,

ロングターン

170~190 21≦R

※長さは、女性の場合約-10cm程度で考えて下さい。