はじめに

この図は、あくまでも一例です。一応上部から下部に向かって矢印を入れてありますが、必ずしも一番上(ブーツを買うぞ!!)からスタートするのではなく、途中(例えば、メーカー:ブーツの決定)からスタートしても一向に構いません。但し、全てのキーワードは、一度は検討してみてください。

先日、「スキーの選び方」について、寄稿・アドバイスさせていただきましたが、早々に第Ⅱ弾として、「スキ ーブーツの選び方」についてのご依頼を受けました。  昨年の神奈川県スキー指導員会総会での講演会では、「カービングスキーの乗りこなし方」という課題に関連し て、スキー用具の選び方に関しても若干ふれました。 その中に、スキーブーツのお話しもさせていただきました が、今回は、スキーブーツ選びに焦点を絞って、私なりに説明してみたいと思います。  近年、カービングスキーの開発に平行して、スキーブーツの開発も各メーカーが積極的に行っている事は言う までもありません。 しかし、一般ユーザーの立場からすると、何が良いのかよくわからないでしょうし、SKIと 違って試乗の機会があまりにも少ないのも事実です。そこでメーカー関係者の方々には、ぜひ一般ユーザーへの 試乗の機会をより多く企画していただけるよう、この場をお借りしてお 願いしたいと思います。  私はスキーブーツ、 SKI選びと同様にその機能・構造のみ で選択するのではなく、滑り手である スキー ヤー が求める性能(フィット感,保温性,操作性等) を持つ スキーブーツを選択すべきと考えています。  従ってスキ ーブーツの機能・構造は、スキーヤーが求める性能をクリアーできるものであれば良いのではないかと考えます。 そ こか ら、それぞれのメーカーが開発した機能・構造等を、自ら評価して決定していくのです。   しかし SKI選びと違うのは、足そのものに合うものでなければ、痛み等で SKIどころではないのも事実です。 そこがスキーブーツ選びの難しいところです。  今回は、神奈川県スキー指導員会の会員の方に、自分に合ったブーツ選びを依頼されたと仮定して、その際 私 が会員の方にアドバイスするであろう内容を、 ≪塚脇 誠のブーツ選び≫と称して、図にまとめてみました。以下、 図を説明しながら、進めたいと思います。

ブーツを買うぞ!!

 購入する理由は問いませんが、何事もやる気が大切です。そして、こんな時代です。予算の面も重要なポイントと思います。ちょっとした見栄(例:高級なインソール投入)の結果、1回スキーに行く機会を断念するのは、どんなものでしょう?

どのような目的に使用するのか?

 主にレース(大会)出場・勝つ為に使用するのか,指導者としてのスキー指導活動の為に使用するのか,初~中級者がこれから上達する為に使うものなのか,等…で、選択すべきブーツは当然変わってきます。 用具は、全てに100% 適したものは、あり得ません。車を思い浮かべて下さい。F1のマシーンとラリー仕様のマシーン,我々が日常使用する車には、それぞれの長所&短所があるのです。  使用目的を明確にする事が重要なのではないでしょうか…

目的達成する為の機能・構造を備えたブーツメーカーの選択

 ブーツの機能・構造は、

各メーカーがそれぞれ大金を投入して開発しています。その最前線が、アルペンスキーワールドカップと言えます。そこで蓄えられたノウハウが、我々一般ユーザーにフィードバックされてきます。この各メーカーの機能・構造についてあげれば限がありませんので、ここでは一般的なポイントだけを若干説明します。スキーブーツに求められるものとしては、「フィット性(サイズを含め足に合っているか)」;後述,「使い勝手(保温性,脱ぎ履きのし易さ)」,「操作性能(骨格に合っているか,プラスチックの特性…)」,等…をあげることが出来ます。但し、ここにあげられていない要素もありますし、それぞれの要素は密接に関係し合っている事も忘れてはなりません

◆保温性,脱ぎ履きのし易さ:使い勝手

 スキーブーツは、その使い勝手の良さというものも重要な要素となります。第一に、保温性があげられます。アルペンスキースポーツは、冬期の厳しい自然環境の中、さらに自然が厳しい高山地域でのスポーツといった性質上(厳しいからこそ、自然の素晴らしさ・美しさが体験でき、これが出来るのがアルペンスキーの魅力の一つなのです)、気温-20℃の中での活動も珍しくはありません。また当然スポーツ運動をするのですから、汗をかく事もあり、ブーツの保温性は重要な要素です。ちなみに私の冬期活動のベースとしている奥志賀高原では、12月下旬~2月いっぱいの約2ヶ月半は、朝・夕の気温がほぼ毎日-7℃以下になります。

 ブーツの脱ぎ履きに関しては、上級者の方々はさほど問題とならない要素ですが、初~中級者やシルバー層(中高年)の指導をする機会の多いであろう指導員会の皆様の為に、あえてここで取り上げました。修学旅行や初心者指導の際、ブーツを履くところからの指導を経験されれば、この重要性がお分かりいただけると思います。受講生(生徒)は、平気で左右反対にブーツを履きます。またレンタル業者のミスで、右右のブーツ,左右サイズの違ったブーツを用意されても、知らずに履き、ゲレンデに出てきます。また、その際の脱ぎ履きの難しさは、我々の想像を超えています。その為、リアエントリー式のブーツが流行した時代もありました。

 またこの使い勝手の良さには、「春スキーの際、ブーツの中に水が浸入するかしないか」,「バックルが壊れ易い」…等の問題も含まれてきます。このような要素は、既にそのブーツを使用している仲間からの情報が重要な意見となるでしょう。直接聞いても良いでしょうし、ゲレンデで他人の道具を観察してみれば、わかるはずです。

操作性能

 操作性能は、各メーカーが開発した独特の構造やコンセプトに、特に密接に関係する要素です。機能・構造・コンセプトについては後述しますが、私がここで説明したい事は、『スキーブーツはスキー滑走の為にあるブーツ』という事です。従って、店頭でブーツを履いて歩いてみても、実際に滑走し易いブーツなのかの保障は無いという事です。

 例えば、脛の湾曲度や脚関節のアライメントによって、ブーツのアッパーシェルの角度を調節する「カント調節」は、それぞれのメーカーや店頭で、様々な方法を用いて決定しているようです。しかし私の場合、実際に滑ってみてから決定します。同時にビデオを撮り、自身の動きの評価も行った上でです。この発想の基本にあるのは、「スキー技能(上手さ)は、用具の選び方・選択も含まれる」といったところにあります。つまり、スキーの上手な人は、上手に滑る道具を選ぶ能力を持っているという事です。これはブーツ選びにだけ特別なのではなく、SKIをはじめとした用具全てに言える事と考えています。これ以上は、私の専門分野である「スキー運動学」,「スキー技術論」,「指導方法論」になりますので、今回はここまでとし、後日機会のありました際、ご説明させていただきたいと思います。

※機能・構造・コンセプトについて

 最近のブーツメーカーの機能・構造・コンセプトは、大別すると2つに分ける事が出来ると思います。一つはL社を代表とする、「一体型:共同作業型ブーツ」。もう一つはA社の開発した「部分型:分業型ブーツ」です。

 一体型ブーツは、ブーツの様々な機能:トーション(捻れ),フレックス(しなり)を、アンダーシェル(ブーツの下のパーツ)とアッパーシェル(ブーツの上のパーツ)で、全て共同作業で性能を発揮するような構造を持ったブーツです。ごく一般的なタイプです。長所としては、常に共同作業ですから、ずば抜けて良い部分も無ければ、悪い部分も無く、全体としてはまとまって高性能を発揮できるタイプと言えるでしょう。しかし、ずば抜けた部分を出しにくく、どこかを強くすると、その歪みがどこかに出てきやすいとも言えます。

 部分型ブーツは、ブーツの様々な機能:トーション(捻れ),フレックス(しなり)を、アンダーシェル(ブーツの下のパーツ)とアッパーシェル(ブーツの上のパーツ)のみではなく、つま先、踵部分を分離し、その間にスタビライザー(様々な硬さ)を挟み、機能を分業させ、それを組み合わせて性能を発揮するような構造を持ったブーツです。長所としては、例えばトーションを強くしようとすれば、すぐに出来、他の性能にあまり影響を与えず強化する事が可能です。しかし、部分部分で担当する分業制には、必ずその部分の統合・結合に問題が生じ易いのも事実です。

 部分型ブーツは、ここ3~4年前にワールドカップで使用されるようになり、新しいコンセプトにより誕生しています。一般市場でも販売されていますが、一体型と部分型のどちらのブーツが良い・優れているのかは、ワールドカップ成績を見ても、現段階では判断できません。

 しかし大切な事は、我々がどちらのタイプのブーツを選択するのか、そしてその長所と短所をしっかり抑えた上で使用する(履く)事です。

 もう一つここで取り上げたい構造・コンセプトを説明します。昨年度の神奈川県スキー指導員会総会時の私の講演では、カービングスキーでのカービング滑走の危険性(障害・傷害)についてもふれました。近日発刊予定(7月?)の日本スキー学会誌No.12「カービングスキー技術論Ⅰ(障害・傷害とターン運動技術):塚脇 誠(単著)」には、さらに詳しく論じてありますので、ご参照下さい。その危険性を、スキーブーツの機能・構造的な面からクリアー(予防)出来ないかと開発されたブーツが、L社より昨年度から販売されています。カービングスキー時代に突入した現在、このように障害・傷害予防の観点から用具を選ぶ事も重要な要素の一つになってきています。

メーカー:ブーツの決定

 ここまで検討してきて、満足のいくブーツを具体的にピックアップし、ターゲットとなるブーツを決定します。その際、最初に説明しました予算にも、適合するのかどうか検討して下さい。また、私は付加価値的な要素と考えていますが、配色等についても検討してみましょう。

ブーツのフィット性(サイズ選択を含めます)

 フィット感は、ブーツ選びの中でかなりのウェートを占める要素と考えられます。しかしヨーロッパで開発・生産されたブーツが多い中、神奈川県スキー指導員会会員の方からのご質問にもありましたが、日本人特有の甲高+幅広の足型に合わないといった問題をお持ちの方も多いようです。

 世界のスキー市場の3分の1を占める日本市場は、どこのメーカーにとっても重要なビジネス地域です。従って最近は、各メーカーも日本人向けの型を作製し、日本人バージョンのブーツを販売していますので、一時期よりは、甲高+幅広の方も苦労しなくなったかと思います。とは言っても… という方も…。

 ブーツのフィット性に関しては、①足型に合ったブーツを選ぶ,②足をブーツに合わせる,③足型に合わせてブーツを加工する,④自分だけのブーツをつくる,といった方法で解決するしかありません。

①   の場合は、結果的に多少大きめのサイズのブーツを選ぶ事になります。従って、ブーツの中で足が遊ぶ感覚,つまり、あまりフィット感は無いでしょうし、スキー滑走時の操作性にも影響を及ぼす事は避けられないでしょう。しかし、足のどこかが痛い,軟骨がとび出してきた,足が変形してきた…等の問題はほとんどありません。

②   の場合は、多少の痛み・不都合は我慢して、ブーツ設計上の機能を100%生かそうとするものです。と言えば、聞こえは良いですが、無謀に近いものがあります。この場合は、足の変形等の問題が発生し、快適なスキー・楽しいスキーにはつながり難いように思います。

③   の場合は、現在一般的に行われているものです。これは、前記①・②の長所をうまく取り入れたものと考えられます。しかし、加工の程度にもよりますが、比較的高価なブーツになる可能性があります。

④   の場合は、メーカーにもよりますが、その人だけのブーツをつくります。ブーツ作製の職人が、スキーヤーの足型等を把握し、ほぼゼロの段階からブーツをつくります。従ってフィット性は最も高いと考えられますが、同時に最も高価なブーツになります。後述しますが、スキー滑走時の操作性・機能的な面で、私は若干の疑問が残ります。

この図は、あくまでも一例です。一応上部から下部に向かって矢印を入れてありますが、必ずしも一番上(ブーツを買うぞ!!)からスタートするのではなく、途中(例えば、メーカー:ブーツの決定)からスタートしても一向に構いません。但し、全てのキーワードは、一度は検討してみてください。

≪アドバイス≫

 スキーブーツの購入(選択)に際して、実際に滑走して感覚を確認してから購入される方は、ごくわずかでしょうし、冒頭にも書きましたが、そのような機会(試乗の機会)があまりありません。従って、店頭でブーツを履き、2030分履いて店内を歩き回る。その後、脱いで、足の赤くなった部分を加工する/しない程度の判断と思われます。しかし私は、 style=’color:red’>スキーブーツは雪上を滑走してナンボ」=「スキーブーツは滑る為の道具=足の一部」と考えますから、滑ってみなければ良し悪しはわからないと思います。従って私の場合は、様々なブーツを実際に履いて滑走する事は不可能ですから、まず自分の感覚の中で最も良かった=滑走し易かったブーツの感覚を忘れないように覚えておき、その感覚を基本(出発点)として、様々に応用していきます。何が良く・何が違うのか…等。時には、10年以上昔の古くなったぼろぼろのブーツを履いてみる事もありますし、そのブーツで実際に滑ってみる事もします。

 また今回の図の中に、「加工するのか/しないのか」といったキーワードがありますが、もしかすると会員の皆様は、ここが一番聞きたい部分だったかもしれません。しかし私はあえて、深く掘り下げて説明する事を避けました。その理由は2つあります。1つ目は、この部分について専門的に知りたい方は、ここ2~3ヶ月の間に発売され(てい)る各スキー雑誌のマテリアル情報を熟読された方が、情報の量・質共に良いと思うからです。私にとっては、2つ目が重要なのですが、100%自分の足に合った加工をすれば、「本当に快適なスキーが楽しめるのか??」と疑問に思っているからです。

 私は7年ぐらい前だったと思いますが、私の最も気に入っていたブーツをベースに徹底的に加工し、自分の足に合ったブーツをつくりました。インナーは皮・固めのフォーミング液・インナーソールも最高級・シェルも足型に合わせ加工しました。しかし、結果的に思ったような(満足できる)滑走にはつながりませんでした。加工する前のオリジナルタイプのブーツの方が、結果的には良かったのです。

 それまで私も、手間暇かけて徹底的に自分の足に合ったブーツをつくれば、滑走に最高であろうと考えていましたが、結果はそうではありませんでした。その後、その原因を私なりに考えてみました。そしてそれは、「なぜ人間の足には土踏まず(横軸のアーチ),と縦軸のアーチがあるのか?」という人間の足と人間の運動能力について考えさせられるキッカケになりました。この縦軸・横軸のアーチは、様々な身体への衝撃に対するショックアブソーバー機能と、逆にジャンプする際に、効率よく力を伝達する機能の為にあるものです。また、面(足裏全体)で地面を捉えるより、(3)点で捉えた方が人間の運動の為のバランス保持には有効である事も言えるでしょう。従って、完全に足に合ったブーツは、その重要なアーチを無くしてしまう事になってしまうように考えられます。この問題は、現在も結論に至っていませんが、ただ言える事は、完全に足に合わせたブーツであっても、必ず満足するブーツになるかどうかはわからない、という事です。

 現在私は、スキーコーチ・スキー教師(冬期は奥志賀高原)の活動をしています。その仕事環境は、1日中ゲレンデを滑走し続けなければならない,時にはポールをフルアタックで滑走する,または高速ロング&ショートターン滑走も行う,新・深雪やコブ斜面滑走もある,5~6歳の子供やシルバー層の方の初心者指導も担当します。従って現在の私のブーツは、当たる(小指の付け根)部分のインナーを薄く削る,インソールを旧タイプブーツ(市販物)のものに換える程度で、それ以外はノーマル(無修正)です。来シーズンは、インナーブーツをフォーミングしてみたいとは思っています。

 ブーツ選びは、スキー運動の質(≒技能)に直接関係する為、SKI選びよりも慎重にならざるを得ません。今回の寄稿が、神奈川県スキー指導員会関係者のブーツ選びのヒントになれば幸いです。